《オルペウスの冥界下り》
ギリシャ神話の「オルペウスの冥界下り」は、蛇に噛まれて死んだエウリュディケを追って、その夫であるオルペウスが冥界まで追って行く物語です。『変身物語(オウィディウス)」の第十巻に載っています。また、第十一巻にはオルペウスが殺される物語が載っています。
神話はギリシャ神話ですが、『変身物語』はラテン語で書かれています。
神話ができた時代の神話そのものではなく、物語にも後代の編集が入っているのでしょう。
ではオルペウスの神話を『変身物語』の第十巻、第十一巻から読んで
いきましょう。
●第十巻 冥界下り
①エウリュディケ、蛇に噛まれて死ぬ
主人公のオルペウスはトラキアの人。ギリシャ最古の詩人であり、音楽家。そして預言者でもあり、秘儀の創始者でもある。彼がエウリュディケと結婚をするために婚礼の神、ヒュメナイオスを招くところから神話は始まる。
しかし、新妻エウリュディケが水の妖精(ナイス)たちと草原を歩いているときに蛇に踵をかまれて死んでしまったために、婚礼の神の来訪も無駄になってしまった。婚礼の神が手にする松明も燻る音を立て続け、煙で涙を流させた。
②オルペウス、冥界に行く
オルペウスも泣いた。泣き尽くしたオルペウスは冥界に向から。冥界の女王ペルセポネと冥界の王プルート(ハーデース)のもとに行き、竪琴を奏でながら悲しみを歌う。
十巻所載のオルペウスの物語の中では、この歌に最大の行数が使われている(全85行中 22行)
③エウリュディケを返すとともに条件を示す
その歌に亡霊も涙を流し、冥界のさまざまな責め苦も止んだ。復讐の女神でさえその頬を涙で濡らし、冥界の王妃も王もオルペウスの願いを拒み得ず、彼女を返すことに同意した。
死霊たちの間にいた妻エウリュディケをオルペウスは受け取る。が、同時に連れ帰る条件も受け取った。それは「冥界の谷を出るまでは後ろを振り返ってはならない」というものだった。
④オルペウス、振り返ってしまう
ふたりは物音ひとつしない漆黒の静寂(しじま)の登り道を歩いて行く。
もうすぐ地上というとき、オルペウスは妻が力尽きてしまっていないかと恐れ、また「見たい」という欲望に駆られ、目を後ろへと向けてしまった。
すると、彼女はたちまち後ろへと滑り落ちてしまったのだ。
オルペウスは両腕を伸ばして捕まえようとしたが、ただ空気をつかむだけ。振り向いてしまったオルペウスだが、妻はそれを恨まなかったと「変身物語』には書かれる。
⑤オルペウス、女を愛さなくなる
地上に戻ったオルペウスはもう一度、冥界に行こうとするが、真界の川の渡し守に阻まれて戻る。七日間、食を絶こたが、その後に放類に帰る。
しかし、彼はもう二度と女を愛さなくなってしまった。そして、故郷トラキアの人々に少年を愛することを教えた。
●第十一巻 オルペウスの死
①バッカスの信女ら、オルペウスに怒る
エウリュディケーを失ったオルペウスは女性との関係を断ち、代わりに少年を愛していた。バッカスをじるキコネス族の女性たちはそれが面白くない。
ある日、オルペウスが歌を歌い、森や獣たちや石を惹きつけていたとき、獣の毛皮に身を包み、狂乱状態に陥ったキコネス族の女のひとりが「ほら、あそこに女を蔑ろにする男がいる」と叫び、神杖をオルペウスに投げつけた。もう一人の女は石を投げたが、歌声と竪琴の協和する調べの力に屈してオルペウスの足元に落ちて転がった。
どんな武器も歌の力の前では無力にされてしまった。
②オルペウスを撲殺
しかし、彼女たちの叫び声と角笛、そして小太鼓と手拍子の音が、オルペウスの竪琴を歌声を消し去り、彼の音楽の力を弱めてしまった。オルペウスの歌に酔いしれていた鳥や蛇たち、列をなす獣たちの群れが、まず彼女たちの餌食になった。
それから狂女たちはオルペウスに殺到し、神杖を投げつけ、土塊を投げつけ、枝を投げつけ、石を投げつけ、鍬や、重い馬鍬や、長い鶴嘴などでオルペウスを殺した。
③頭部と竪琴の漂流
森の動物も鳥も、石も木も川も、水の妖精たち
頭部と竪琴の漂流
森の動物も鳥も、石も木も川も、水の妖精たちや木の妖精たちも、オルペウスの死を悼んだ。オルペウスの肢体は引き裂かれて、そこここに散り散りになったが、頭と竪琴はヘブロス川の波間に漂った。不思議なことに竪琴は調べを奏で、命なき舌も歌を歌っていた。
④オルペウス、冥界に行く
死んだオルペウスは冥界に向かった。以前見た場所はすべて覚えていて、エウリュディケを見つけだした。愛おし気に彼女を抱きしめたオルペウスは、二人で冥界の野を歩む。ある時は並んで歩き、ある時は彼女の先を、ある時は彼が先を歩くが、もう安心して後ろを見返りエウリュディケを眺めることができる。こここそ、永遠の地なのである。
⑤バッカスの信女たち、木にされる
バッカスはオルペウスを殺した女たちは許さなかった。それはオルペウスこそが、自分の秘儀を歌い、讃えてくれる歌人だったからだ。怒ったバッカスはキコネス族の女たちにねじれた根を生やさせ、森に縛り付けた。やがて体中が木になった。
