冥界の秘儀~イザナミ命とオルフェオ~

《物語》
この物語での登場人物は、男も女も「二人二役」である。

はイザナギ命(みこと)でもあり、オルフェオでもある。はイザナミ命でもあり、エウリディーチェでもある。

《前半》
妻を連れ戻しに死者の国である冥界に行った男はひとりで戻って来た(「春と修羅(宮沢賢治)」)。

男は悲しみを歌う(『トラーキアの野(Questi i campi di Tracia)』)。

男は、それ以来、女を愛さなくなった。快楽の神、《酒精の神(バッカス)》に仕える巫女たちは、そんな男を殺害するために鞭で打擲(ちょうちゃく)する。

女はそんな男を悲しむ(『麗しのアマリッリ(Amarilli, mia bella)』)。

瀕死の男の意識は冥界下りの記憶を辿る

男は結婚の儀の幻影を見る。

結婚の儀は、婚礼の神の降霊から始まる(合唱『婚礼の神よ来たれ(Vieni Imeneo)』)。男は喜びを歌う(『天の薔薇(Rosa del ciel)』)。

次いで妖精(ニンファ)たちの召喚(合唱『山を離れ(Lasciate i monti)』)、彼女たちを追う牧神(ファウノ)など、さまざまな神霊・精霊が現れる。さまざまな霊や人々の見守る中、男と女は柱を廻って「むすひの儀」を行う(『覚えているか(Vi ricorda)』。

やがて生まれた第一神はヒルコ。この子は葦船に入れて水に流した。

柱廻りの儀を再度行い、やがてさまざまな神々を生む。が、最後に生んだ火の神に焼かれて、女は死者の国に旅立ってしまう。

男は悲しむ(『死んでしまった(Tu se morta)』)が、妻を取り戻すためにその後を追う。

《後半》

冥界に着いた男は妻を探す。

そこにいたのは「死せる妻(エウリディーチェ)」「父母未生以前の死んだ妻(イザナミ)」であり、ここは死者の国ではなく、「父母未生以前の国」だった。ふたりはこの世界においては本来同一体であり、いまちょうど一体化が始まったところだった。

「死せる妻」は、もう帰るつもりはないと言う。

しかし、男は「死せる妻」を返して欲しいと「父母未生以前の死んだ妻」に訴える(『力強き霊よ(Possente spirto)』)。

男の歌を聞いた「父母未生以前の死んだ妻」は、「死せる妻」を連れ帰る許可を与える。しかし「冥界の境(黄泉平坂)を超えるまでは振り返ってはいけない」という。

が、坂の境に差し掛かったときに男は振り返ってしまう。そこにいた妻の体には、蛆(ウジ)がコロロコロロと音をさせながらたかり、八体の雷(いかづち)の群生していた。その姿は「父母未生以前の死んだ妻」のそれであった。

男は逃げる。黄泉醜女(よもつしこめ)や雷(いかづち)たちが男を追う。

男はさらに逃げる。最後に追って来たのは「父母未生以前の死んだ妻」と「死せる妻」。男はあきらめ、こちらの世界で生きることを決める

その途端に男は、生まれてからずっと、こちらの「父母未生以前」の世界にいたことに気づき、こちらの世界での記憶が蘇る。

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