文庫版『つらくなったら古典を読もう』

単行本版『古典を読んだら、悩みが消えた。』

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少しずつ公開していきます。しばらくお待ちください。

・心をコントロールする呼吸法:3つの呼吸トレーニング「ストロー呼吸」「足裏呼吸」「新聞パンチ」

書籍の中では呼吸についてのお話はしましたが、具体的にどのように練習したらいいのかを書く紙幅がありませんでした。そこで、ここでは心をコントロールする呼吸法として3つの呼吸トレーニングである「ストロー呼吸」「足裏呼吸」「新聞破り」を紹介したいと思います。

●ストロー呼吸

呼吸は心にも影響を与えるということを書きました。よく「緊張しているときには深呼吸をしなさい」などと言われます。しかし、緊張している時には深呼吸なんてできない。心が苦しいときには深呼吸もできないのです。

そこでどんな時にも深呼吸ができてしまうストロー呼吸を紹介します。用意するものはストローだけです。とても簡単です。

本文でも書いたように大切なのは吐く息です。

ストローを用意します。

(1) 息を吐くときにストローを使って吐く
お腹の奥から吐くように、お腹を引っ込めながらゆっくりと吐きます

(2) 吸うときはストローを外す
吸うときは短く、すっと吸う。口から吸っても、鼻から吸ってもいいでしょう

これだけです。簡単でしょ。

これを5分行ったら、深呼吸をしてみてください。だいぶ深い呼吸ができるようになっていると思います。

まずは一週間、この練習をします。そうしたらストローを使わずにやってみてください。口の周りが緊張していなかったらOKです。

●足裏呼吸

次に紹介するのは「足裏呼吸」です。気持ちが落ち込んで、何もやる気が出ない、そんなときにするといい呼吸です。あるいは普段でも、意識を肚(はら)に持っていきたい、そんなときにもいいでしょう。

「足裏呼吸」を日本に紹介したのは白隠(はくいん)という臨済宗のお坊さんです。しかし、中国古典である『荘子(そうじ)』がもとになっています。

白隠さんは禅の修行のしすぎで、食欲もなくなり、何もする気が起きなくなりました。何をしても楽しくないし、いつもびくびくしている夜になると目が冴えて眠れなくなる

ありませんか。こんなこと。

そんなときに彼は白幽先生という方を訪ね、内観の秘法を授けられます。その秘法の第一歩が「足裏呼吸」なのです。白隠さんは、この呼吸法によって心の病から回復しました。

この足裏呼吸を最初に提唱したのは道家の思想家である荘子です。荘子は「真人の呼吸は踵(かかと)でする」と言いました。ですから正確にいえば「踵呼吸」です。

でも、この時代「踵」とは足首から下をいいました。ちょうど足袋が包んでいる部分です。足裏だけでなく、足袋が包んでいる部分全体で呼吸するのが「踵呼吸」です。

やり方は以下の通りです。

(1)軽く足を開いて立つ

(2)足裏から吐くつもりで息をしながら、軽く膝を曲げる。
足裏から息を吐くなんて最初は「できない」と思うかもしれませんが、まあ、やってみてください。だんだん感覚がつかめるようになります。

(3)足の裏から息を吸うつもりで息をする。このときに膝を戻し、同時に鳥が翼を広げるイメージで両腕を広げる。

(4)これを何度か繰り返し、最後は吐いたところで終わりにする

すると、ほら。足の裏が床にびったりついている感じがしませんか。地に足が付く、という状態です。

●新聞パンチ

本の中で織田信長の「人間五十年」を紹介しました。

大きなストレスを行動エネルギーに変えるための呼吸を「呼」の呼吸といいます(下記《参照》をご覧ください)。この「呼」の呼吸の練習のための「新聞パンチ」を紹介しましょう。

これは能の鼓の掛け声『コインロッカー・ベイビーズ(村上龍)』からヒントを得て作ったエクササイズです。

鼓では「ヤ」や「ハ」という掛け声を出す前に、息を一度、丹田に溜める「コミ」ということをします。十分に溜めてから、それを「ハ」という音として爆発させるのです。この「ハ」が「呼」の呼吸法です。

(1)構える
新聞紙の上端を、利き腕とは反対の手でつかみ、自分の顔の前あたりにぶら下げるように持つ。体から力を抜き、パンチを出す利き腕を胸のあたりに自然に構える

(2)一度深く吐いた後に、息を吸う。

(3)吸った息を一瞬お腹にぐっと溜める。
これがコミです。このときに「ツ」という声を出してもいい。

(4)吐く息・声とともにこぶしで破る
「ハッ!」という大きな声とともに新聞紙に向かってこぶしをまっすぐに突き出す。うまくいくと、ちょうどこぶしの形に穴が開き、手があちら側に突きつける。吐く息に勢いのある声を乗せ、体の中の空気を一瞬で吐ききるつもりで行う

《参照》
中国古典の『荘子』の中の刻意編には呼吸について次のように書かれています。

〈吹・呴・呼・吸して、故きを吐き、新しきを納(い)れ、熊経(ゆうけい)鳥申(ちょうしん)して寿を為(おさ)むるのみ。〉

呼吸に関する漢字としての「吹(すい)・呴(く)・呼(こ)・吸(きゅう)」の四文字のうち三字、すなわち「吹」「呴」「呼」は息を吐くという意味です。体内にある古い空気を吐き出すのに三字を使い、そして「吸う」は一字だけだということです。

深呼吸というと「吸って吐く」という順番でしがちですが、「呼吸」という語を見てもわかる通り東洋の呼吸は「吐いて(呼)吸う」のが基本です。「故きを吐き、新しきを納れ」とも書いてあるように、三息使って古いものを吐き、そしてひと呼吸新しい空気を吸う。「三呼一吸法」、それが荘子の呼吸法の基本です。

「三呼一吸法」の吐く三呼吸をもう少し詳しくみてみましょう。

▼「三呼一吸法」

最初の「吹」の右側は「欠」です。「欠伸」をあくびと読むように、大きな口を開けることをいいます。口を大きく開けて、大きな息を吐くこれが「吹」の意味です。

次の「呴」は口をすぼめて息を吐くことをいいます。

最後の「呼」の右側の「乎」は「ああ」という感嘆詞として詩などによく使われます。強い、強い特殊な声を出すときの呼吸です。そのような声は遠くにいる人にも届きますから、これが「呼ぶ」という意味になりました。

まとめると次のようになります。

・吹(ハー!=あくびのように口を大きく開けてお腹の底から息を吐く)
・呴(フー=口をすぼめて息を吹きかけるようなつもりで吐く)
・呼(ハッ!=体中の息をすべて吐き出すようなつもりで強く、大きく、吐く)

また、「熊経鳥申」は呼吸をする姿です。「熊経」は、熊が立ち上がるときのように「首筋・背筋をまっすぐに立てること」で(赤塚忠氏説)、「鳥申」は、「息を吸うときに、緩めている膝を伸ばしつつ、鳥が羽を広げるように胸郭や腋の下を開く動作」です。

▼3つの呼吸トレーニングと『荘子』の呼吸の関係

「ストロー呼吸」:呴の呼吸

「足裏呼吸」:吹の呼吸
※熊経(ゆうけい)鳥申(ちょうしん)が膝を曲げたり、伸ばしたりするものです

「新聞パンチ」呼の呼吸

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これからも徐々に更新していきます。

<更新予定>

・万葉集の女性歌人 笠郎女――生涯ひとりを思い続けた人の歌について

・「易経」とライプニッツ、ユング。易をするときの注意点など

・世阿弥の「面白き」と「珍しき」

・「脱同一化」

・九思トレーニング②:静座をしながら九思をする習慣

お楽しみに!

<「はじめに」と「おわりに」>

本書の「はじめに」と「おわりに」を載せています。→