「100分de名著」は最初から『平家物語』だったわけではなかった、というお話しを前回からしています。続きです。
●平家は売れない
さて、最初に提案した『中庸』。その話は(一応)なくなったのですが、じゃあ、何がいいかということ、これが難しい。
むろん、『平家物語』という話も出てはいました。だって、僕は能楽師で、能の中にもっとも取られている古典が『平家物語』なのですから当たり前ですね。ちなみに能に取られている古典、次は『源氏物語』です。
ただ、『平家物語』は僕が渋っていました。
なぜかというと…
『平家物語』は売れない!
…というジンクス、というか統計(かな?)があるからなのです。
NHKが大河ドラマで『平清盛』を放送したときに、「よしこのジンクスを破ってやろう!」と、某出版社で書き出したことがありました…といえば恰好いいのですが、正直いえばNHKの尻馬に乗って『平家物語』についての本を書いちゃえ!と思ったのです。
大河ドラマの『平清盛』は、もうこれ以上はないだろうというくらいに豪華で、しかも各役ぴったりの配役。
しかも音楽は、EL&Pの『タルカス』(オケ版)。おお!高校時代(70年代前半)にプログレバンドを組んでコピーしまくった作品です。
『タルカス』をBGMに流しながら、ふんふんといい気になって『平家物語』の本を書いていました。むろん、大河は毎週、録画もしながら視ていた。
が、編集者から連絡。
「どうも大河の視聴率が伸び悩んでいるようです」とのこと。「やはり、あの本、やめようかと思うのですが」と。
「ええっ!」
もう半分書き終わっているのに、いまさら…とは思ったものの、売れないということがわかっていれば出版社としては出せないのは当たり前。大河の視聴率は「本なんか出しても売れないよ」ということを意地悪に示唆していたのでした。
●秋満さんにもお伝えしました
そして、そんなお話をプロデューサーである秋満吉彦さんにしました。
『平家物語』にするのはいいですが、視聴率はダメかも・・と。
そのとき秋満さんがどんな反応をしたのかは覚えていません。ただ、「『平家物語』に関して、何か書いたものはありますか」というような話になったので、河出書房新社の『平家物語(古川日出男訳:池澤夏樹=個人編集 日本文学全集09)』(写真は上)の月報を書きました、なんてお話はしました。また、紀伊國屋書店のPR誌である『スクリプタ』の連載(「野の古典」)にも書きました、という話もしました。
そして、そのふたつをお読みいただいたところ「面白いので、これで行きましょう!」となったのです。
Eテレは視聴率はあまり気にしなくてもよさそうなので(って勝手にそう感じただけで、本当は知りませんが)、「人気がなくても、ま、いっか」くらいのつもりで承諾しました。
●能だって売れた!
それに、もうひとつのジンクス…
能の本は出しても売れない…
…は、新潮新書の『能』でぶち破ったので、何がどうなるかはわかりませんしね(これは天才編集者A氏によるところが大きいのですが)。
●河出書房の月報の内容
河出書房の現代語訳『平家物語』の月報には、第一回目にお話しした「光と闇」の物語のことを書きました。
きっかけは(これからの放送で出て来ますが)、『平家物語』の戦闘部分に音の描写が多いことに気づいたこと。しかも前半の戦いの多くは「闇」の中で行われます。
そこで読み返してみると、冒頭付近の「殿上の闇討」の話やら、ちょっと遡って『保元物語』の藤原頼長と源為朝の会話などが「光と闇」との対比の中で描かれていることに気づいたのです。
そして、この「闇」の多用は、それを語る琵琶法師が盲目であったこととも関係があるのではないかと…。
…なんて話を月報には書きましたが、それをもっとふくらませた幻の本があったのですが、上記の理由でお蔵入りし、かつその原稿を入れた外付けHDが認識できなくなってしまったので、実質、消滅状態です(笑)。
成仏もできずに消えてしまった『平家物語』の本の原稿が亡霊となって、今回の「100分de名著」の企画を呼び起こしたのかもしれません。
…なんてね。
・100分de名著:5月『平家物語』(3)忖度ではなく「憶度(おくたく)」
・100分de名著:5月『平家物語』(4)『平家物語』に決まるまで<1>
・100分de名著:5月『平家物語』(5)『平家物語』に決まるまで<2>