「100分de名著」、『平家物語』では朗読も安田がします。今回は、朗読の話を。
●朗読もすることに
「100分de名著」は、方針が固まり、どのパートを扱うかが決まると、まずはテキストの執筆を行います。
シコシコとテキストの執筆をしていたある日、ディレクターの方からメールが来て、そこには「朗読もどうですか」と書いてありました。夏目漱石の『夢十夜』や『吾輩は猫である』などをときどき朗読してはいますが、全国放送で流すほどのものではないのでちょっとビビり、「3日間、返事を待ってください」と返信をしました。
が、それから旅の生活に入ってしまって返信を忘れていたら、いつの間にか決まっていた(笑)。返信はちゃんとすべきです(教訓)。そうそう、ちょうどそのころから個人メールが送信できなくなっていたので、返信が遅れた理由としてそれもありました(言い訳)。
でも、ひとりでの朗読はさすがに不安なので、ディレクターの方に「能管(能の笛)や能の鼓の方と共演をしたい!」とお願いしたのですが、「それだと能の色彩が強くなりすぎる」と却下。
本当は最高なのは土取利行さん @drumythm のパーカッションで語ること。でも、今回はパフォーマンスの番組ではなく、名著『平家物語』なので、それも断念。
●薩摩琵琶の方との共演
そこで、琵琶の方との共演になりました。
『平家物語』で琵琶といえば、むろん平家琵琶、平曲です。
おお、それならば平曲の方に語っていただければ、僕が朗読しなくてもいいじゃん、と思ったのですが、なんせ一回が25分の放送。平曲の方に語っていただくほどの時間の余裕はないということで、残念ながらこれも見送りになりました。
じゃあ、平曲の方に伴奏をと思ったのですが、まずはそれは恐れ多い…。そして僕の朗読は「謡っぽい」。ぶっちゃけいうと声がデカい。繊細な平家琵琶を、僕の声がぶち壊してしまいかねない。
このデカい声に対抗できる琵琶は…ということでディレクターの方が見つけてくれたのが薩摩琵琶の塩高和之さんだったのです。
薩摩琵琶の方との共演はしたことがなかったので、まずはお会いしてみようということで、ディレクターの方たちと、天籟能の会の奥津健太郎さん、後藤正子さんと一緒に、ロック系のスタジオでお会いしました。
内輪話ですが、そこのスタジオのオーナーが静岡大学の小二田 誠二さん @KONITASeiji のお兄様だったのです(知らずに行きました。ここは琵琶の塩高さんがよく稽古をされる場所とか)。小二田 誠二さんは、静岡大学に呼んでいただいたり、イベントを企画したりしています(いまも企画中)。
聴かせていただいた琵琶が、とても素晴らしかった。そこで、すぐに「お願いします!」ということになりました。
視聴者の方から「なぜ『平家物語』なのに薩摩琵琶なんだ!」というお叱りの声が届く可能性もあるだろうなぁとは思ったのですが、まあ、でもね。
どうぞご寛恕を。
●アドリブもOK!
また、塩高和之さんは、ジャズ・ギター出身ということでインプロビゼーションがお得意。
朗読は、一日ですべてを収録するので、朗読と音楽のすり合わせをじっくりとしている余裕はない。僕やディレクターの方が「ここは波っぽく弾いてください」とか「戦いの雰囲気で」、「ここは抽象的な感じで」などという、めちゃくちゃなオファーを即興で弾いていただかなければならない。
ジャズ出身の塩高さんは、それも問題なさそうでした。
●どこを読むか
共演者の方を探すのと並行して、朗読でどこを読むかを決めるという作業がありました。
『平家物語』は名文が多いし、能に取られている文章も多い。本当は全部、読みたい!でも、4回の放送。一回には数か所しか読めない。
どこを読むかを選ぶのはなかなか大変な作業です。
ほとんど書きあがっていたテキストをもとにディレクターの方が基本のところを決めていただき、僕が「ここを増やしたい」とか「削りたい」とかいいながら、朗読箇所が決まりました。
●コーラがあった!
そして、収録当日。楽屋に行って、まずはビックリ。僕の大好きなコーラがあるではないですか!
そんな~。僕は催促していませんよ。
コーラに気をよくして(単純)、収録のスタジオへ。
最初は、ひとりの朗読のパートの収録。
どうしても謡の調子になってしまうので、「もっと朗読っぽく」とか「もう少し(スピードを)速めでお願いします」などというダメ出しが何度か。それに噛んだりね(笑)。
また、カメラの位置を変えたり(そうすると照明の位置も変える)、「もう1パターン、撮っておきましょうか」などというのもあって、案外時間がかかりました。
その間、ずっと正座(足痛っ)。
そして、塩高さんが入っての収録。今度はお相手がいるので噛んでやり直しは申し訳ない。ちょっと緊張です。
でも、塩高さんが入ると、こちらもノリノリになって、案外スラスラと行きました。
何パターンか撮った朗読、実際の放送でどれが使われるのかがわからないので楽しみです…が、自分の番組を見るのは怖いので見ないとは思いますが…(録画予約はしました)。
でも、放映されなかった動画も見たいなぁ。もらえないのかなぁ。
●「ひ」と「し」
僕が朗読をお受けするのをためらったのは、「ひ」と「し」の区別が苦手、というのがあります。
育ったのが銚子市(千葉県)。ここは「ひ」と「し」の区別がありません。「し(日)がたけえ」などといいます。「しこうき(飛行機)」ともいいます。いまだに「品川」と「商品」をパソコンで打つときに「ひながわ」・「しょうしん」と打って、「変換しねぇな!」などと怒りを覚えることがあります。早口言葉に「旭市干潟朝日新聞干潟支社」なんていうのがあります。
冗談ではなく「She is a boy」という英語の先生もいました。国語の先生はさすがにその違いを聞き分けることはできるのですが、「そこは『し』じゃなくて『し』だろう」と発音の方はできませんでした。
…てなわけで、朗読中に「ひ」と「し」の区別ができているか心配なのです。
ディレクターの方の「はい、もう一度お願いします」がなかったところは大丈夫だったかなぁ。
まだまだ心配。
では、また次に~。
・100分de名著:5月『平家物語』(2)朗読の収録
・100分de名著:5月『平家物語』(3)忖度ではなく「憶度(おくたく)」